勝手に総括 - ホンダ編
2026年5月19日
◆ Div.1に残した確かな爪痕
今シーズンのホンダは、クラブ史における明確な転換点として記憶されるべき一年となった。最終成績は7勝11敗、勝ち点34の8位。これはリーグワンDiv.1昇格後初となる一桁順位であり、同時にクラブ史上最高位でもある。数字だけを見れば勝率は五分に届かない。しかし、その中身は昨季の11位とは本質的に異なっていた。
今季のホンダは、単に「残留争いから抜け出したチーム」ではない。トップカテゴリーで戦うクラブとしての輪郭を明確に描き始めたシーズンだった。終盤までプレーオフ圏争いに踏みとどまり、第12節では東芝を 24 - 22 で撃破。強豪に善戦するだけで終わっていた過去とは異なり、「Div.1の中位勢力」としてリーグに確かな爪痕を残したのである。
◆ Div.1仕様への進化――積み上げられたフィジカルと守備文化
2023-24シーズンのDiv.1初年度は1勝15敗。続く2024-25シーズンも4勝止まり。昇格後のホンダは、明確にトップリーグの壁に苦しんでいた。
しかし、キアラン・クローリーHC体制は、その現実から目を背けなかった。徹底して追求したのは、接点と守備の強度である。短期的な結果よりも、Dvi.1で戦い抜くための肉体と規律を、3シーズンかけて植え付けていった。
その成果が、今季ようやく形となって表れた。
最大の変化は、接点で簡単に後退しなくなったことだ。ブレイクダウンにおける粘り、リロードの速さ、内外の守備連携――いずれも昨季までとは比較にならない安定感を見せた。一度ラインブレイクを許すと連続失点へ崩れていたチームは、今季、「簡単には壊れない集団」へと変貌したのである。
また、ゲーム終盤の戦い方にも成熟が見えた。昨季までのホンダは、接戦に持ち込んでも最後に自滅するケースが少なくなかった。しかし今季は違う。敵陣でのプレッシャーの掛け方、キックエリアの選択、ペナルティの誘発――試合を“設計”する意識が浸透していた。
先述の東芝戦の勝利は、その象徴だった。終盤の局面で焦れず、フェーズを重ね、相手にミスを強いる。試合終了まで誰一人諦めない姿勢が、ダーウィッド・ケラーマンのサヨナラPGを呼んだ。その姿には、「Div.1で勝つための経験値」が確かに蓄積されていることが見て取れた。
◆ テビタ・イカニヴェレ――ホンダを変えた“文化の媒介者”
今季の躍進を語る上で、HOテビタ・イカニヴェレの存在は欠かせない。
彼は単なる高性能な外国籍選手ではない。ホンダというチームの戦術的成熟と精神的安定、その双方を押し上げた存在だった。
まず特筆すべきは、セットピースへの影響である。
ホンダのスクラムは、かつて個々のパワーに依存する色合いが強かった。しかしイカニヴェレは、斎藤展士アシスタントコーチの下で、日本ラグビー特有の緻密なスクラム技術を吸収。両脇のプロップとタイトに結びつき、ユニットとして押し込むスタイルへと進化した。
その結果、ホンダのフロントローはリーグ有数の安定感を獲得した。従来はスクラム劣勢からゲームプランが崩壊する試合も少なくなかったが、今季はセットピースを起点に試合を組み立てられるようになったのである。
ラインアウトにおいても、彼の存在感は絶大だった。投球精度はもちろん、相手守備の動きを読み取る判断力、コール選択の冷静さが際立ち、ホンダのエリアマネジメントを支える基盤となった。
さらに、イカニヴェレの真価はフィールドプレーにある。
フッカーでありながら、バックス並みの加速力とハンドリングを備え、中央突破の脅威となった。彼がゲインラインを越えることで相手守備は内側へ収縮し、その結果、外側のレメキ ロマノ ラヴァやベン・ポルトリッジやテビタ・リーら快速BK陣が広大なスペースを得る。ホンダのカウンターアタックが鋭さを増した背景には、間違いなく彼の存在があった。
加えて、26歳にしてフィジー代表キャプテンを務める精神的成熟も、チームへ大きな影響を与えた。接戦の局面でも冷静さを失わず、FWD陣へ絶えず声を掛け続ける。その落ち着きが、ホンダ全体の「大崩れしない空気」を生み出していた。
来日前から日本語を学び、日本のスクラム文化へ敬意を示し、日本人選手たちとの距離を自ら縮めていった姿勢も印象的だった。単なる“助っ人”ではなく、文化そのものを共有しようとする姿勢が、チームに深い信頼感をもたらしていたのである。
◆ “粘るチーム”から“主導権を握るチーム”へ
今季のホンダは、従来の「耐えて守るラグビー」から、より能動的なスタイルへ移行した。
その根幹を支えたのが、セットピースの安定である。
イカニヴェレ、肥田晃季らを軸としたラインアウトは高い成功率を誇り、自陣脱出や敵陣モールの起点として機能した。スクラムもリーグ上位相手には苦戦したものの、中位勢力との対戦では十分対抗可能なレベルに達していた。
セットプレーが安定したことで、ゲームプランにも余裕が生まれた。自陣から無理に展開せず、敵陣深くへ蹴り込み、ディフェンスで圧力を掛け、ミスを誘発する。エリアマネジメントを重視した“現実的な勝利へのアプローチ”が徹底されていた。
また、カウンターアタックの質も向上した。レメキの突破力、山下楽平やボルトリッジやリーの決定力、そしてFWD・BACKS一体となったサポートラン。その背後には、中央で前進するイカニヴェレの存在があり、攻撃全体に流動性を生み出していた。
一方で、シーズンを通してSH・SOのハーフ団を固定し切れなかった点は、今季の課題でもあった。セットプレーと守備構造が安定していたことでチーム全体の秩序は保たれたものの、試合によってアタックのテンポやリズムに波が生まれたのも事実である。
特に強豪相手になると、「誰がゲームを支配するのか」という部分でわずかな揺らぎが見えた。神戸やパナソニックやクボタなどの上位チームほどハーフ団の意思統一と継続性は強固であり、その差が接戦終盤の精度に表れる。今季のホンダは組織力で戦える段階には到達したが、プレーオフ争いへ本格的に踏み込むためには、“試合を設計し切れる9番・10番”の確立が次なるテーマとなるだろう。
ホンダのアタックは、昨季までの“単発的な勢い”ではなく、構造を持った攻撃へと変化していたのである。
◆ 「鈴鹿ラスト」が生んだ結束
今季を特別なものにした要素として、ホストエリア移転問題も避けて通れない。
クラブは、1961年の創部以来65年間歩んできた三重県鈴鹿市を離れ、来季以降は栃木県宇都宮市を中心とした新体制へ移行することを決断した。
背景にあるのは、クラブの本格的プロ化と集客規模拡大への挑戦である。人口約19万人の鈴鹿市から、約51万人を抱える宇都宮市へ。さらに栃木県内にはHonda関連施設も多く、グループとの連携強化も見込まれている。
しかし、この移転発表はチームを分裂させなかった。むしろ、「鈴鹿へ最後に恩返しをしたい」という感情が、クラブ全体を強く結束させた。
その象徴が、最終節トヨタ戦である。東海ダービーとなったこの一戦で、ホンダは前半から 31 - 0 と圧倒。最終的に 38 - 26 で勝利し、5,375人が詰めかけた鈴鹿を歓喜で包み込んだ。
試合後の光景には、単なる勝利以上の感情が漂っていた。65年間支え続けた鈴鹿への感謝。その思いが、選手、スタッフ、ファンの間で確かに共有されていたのである。
◆ 来季への展望――試される“クラブの真価”
もっとも、今季の成功がそのまま来季へ直結する保証はない。
むしろ、来シーズンのホンダは大きな転換点を迎える。
キアラン・クローリーHCは今季限りで退任(個人的には少なくともあと2シーズンはクローリー体制で行って欲しかった)。さらに土永雷、ジョニー・ファアウリら主要メンバーもクラブを離れる。つまり、今季の躍進を支えた文化そのものが再編期へ入るのである。
新体制が現在の守備規律を継承するのか、それとも新たな方向性を打ち出すのか。ここは来季最大の焦点となる。
加えて、来季のホンダは“追われる側”になる。
これまではノーマークに近い存在だった。しかし来季は違う。各クラブは、ホンダのエリア戦略、カウンター構造、そしてイカニヴェレを軸とした中央突破への対策を進めてくるだろう。
その中で、現在のスタイルを深化できるのか。それとも新たな武器を加えられるのか。そこに、「中位定着」で終わるのか、「プレーオフ争い」へ踏み込めるのかの分岐点がある。
また、依然として課題なのはスコッドの厚みである。
第15節リコー戦での 5 - 49 という完敗が示したように、主力不在時や強度が一段階上がった試合では脆さも露呈した。上位クラブとの差は、先発の質だけではない。80分間を通して強度を落とさない選手層の厚みにある。
ホンダというとどうしてもフランコ・モスタート、パブロ・マテーラ、レメキという名前の印象が強いが、彼らはいずれも30代の選手だ。楠田知己、宮下晃毅、山村和也、當眞慶ら若手の成長を含め、スコッド全体の底上げは不可欠となる。
◆ 総括
今シーズンのホンダは、「残留を目指すクラブ」から、「Div.1で存在感を示すクラブ」へと進化したシーズンだった。
そこには、守備文化の成熟、セットピースの安定、ゲームマネジメントの向上、そしてイカニヴェレのような“文化を変えられる存在”の加入があった。
何より、今季のホンダには「再び見たい」と思わせる魅力があった。激しく守り、接点で戦い、最後まで規律を失わない。その姿は、65年間クラブを支え続けた鈴鹿への、何より誠実な回答だったのではないか。
鈴鹿での歴史に幕を下ろし、次なる舞台は宇都宮となる。
“ヒートスピリット”は、新体制・新天地でさらに大きな炎となるのか。
来シーズンは、このクラブが真の意味で“リーグワンの中核”へ近づけるかを占う、重要な一年になるはずだ。
