リーグワンの新制度「カテゴリーA1/A2分け」に関する騒動
2026年4月23日
リーグワンの来季からの新制度が独占禁止法に違反するとして、海外出身で日本国籍を取得した選手らが20日、公正取引委員会に申告しました。問題の核心は、「日本国籍を持ちながら、日本で義務教育を受けていない選手」の出場機会が事実上制限される点にあると思います。
本件は色々な事情や思惑が絡んでいるので、個人的に何が正解かは分かりかねます。今まで貢献してきた選手へのリスペクトや同情などの単純な感情論だけでは片づけられない問題が存在していると思います。新制度「カテゴリーA1・A2」の詳細についてはご理解頂いてる前提で、ここまでの状況や背景を整理することで、皆さんが改めて考える際の参考になれば幸いです。途中、個人的な推察等も含まれますので、ご了承ください。
1. 今回の申告の中身
・公正取引委員会に申告
・東京地裁に制度適用の差し止め仮処分も申し立て
を行いました。
彼らの主張はシンプルで、
・新制度は「競争機会を不当に制限する=独占禁止法違反」
・さらに「これまでの地位を一方的に奪われる重大な不利益」
というものです。
2. 法的争点
① 選手側の主張
・憲法違反:帰化して日本国籍を持った以上、法的には100%日本人であるにもかかわらず「義務教育をどこで受けたか」という後から変更不可能な属性で線を引くことは、実質的な門地(家柄・出自)や人種に基づく差別に近いという指摘。この制度によって出場機会が減り、契約更新ができなくなることは、憲法が保障する「働く権利」を不当に制限しているとみなされる可能性がある。
・独占禁止法違反:リーグワン側が独占的な立場で、選手にとって極めて不利な「不公正な取引方法」を押し付けている。
② リーグワン側の理屈(想定)
・憲法は主に「国と国民」の関係を縛るものであり、私団体であるスポーツリーグ内のルール(私人間)には、ある程度の裁量が認められるという考え方
・代表強化という公益性のある目的のために、一定の出場枠制限を設けることは「合理的な区別」であるという主張
・国際的にも「自国育成枠」は一般的
さらに日本代表30キャップという高すぎるハードルの是非についての司法・行政の判断も注目ポイントだと思います。
3. リーグワンのもう1つの狙い
リーグワン側は、この制度変更の目的を「日本出身選手の出場機会を増やし、国内ラグビーの普及と日本代表の強化につなげるため」」と説明していますが、実態としては、選手の獲得競争による「年俸の高騰」と「クラブ経営の健全化」という極めて現実的な問題が潜んでいると思います。今回の制度は、実質的なサラリーキャップ(年俸総額制限)に近い役割を狙った側面があると考えられます。
① マネーゲームの抑制
これまでは「日本代表資格」さえあれば、海外出身選手でも日本人と同じ「カテゴリーA」として無制限に起用できました。各チームが勝利のために、高額な年俸を提示して「カテゴリーA」の強力な海外出身選手を奪い合う事態となっていました。これを人数制限をかけることで、チームが際限なく高額選手を抱え込むことにブレーキをかけ、経営を圧迫する支出を抑える意図があると思います。
② クラブ経営の持続可能性
リーグワンの多くのチームは依然として企業の福利厚生や支援に頼る部分が大きく、プロリーグとして自立した収益構造の確立が急務です。チーム運営費の大部分を占める「選手人件費」のコントロールは避けて通れない課題ですので、特定の資金力があるチームだけが強力な海外出身選手を独占することを防ぎ、リーグ全体の競技バランスを保つ目的もあると思います。
③ 選手側が反発している「矛盾」
今回の申告において、選手側が特に問題視しているのは「コストカットの矛先が自分たちに向いている」という点だと思います。日本国籍を取得し、日本人として生活・プレーしている選手を、コスト抑制や日本人育成の「調整弁」として扱うのは差別的であるという主張です。新制度で「枠外(カテゴリーA2)」になれば、チームは高額な年俸を維持できなくなり、契約更新の拒絶や大幅な減俸が現実味を帯びます。
④ リーグワンのジレンマ
リーグワン側は、「世界最高峰のリーグにしたい(=高額なスターを呼びたい)」という理想と、「経営を破綻させたくない(=人件費を抑えたい)」という現実の板挟みになっています。今回の申告は、その「しわ寄せ」を直接受けることになった帰化選手たちによる、生存権をかけた抵抗と言えます。 今後、この「年俸抑制」という目的が、「日本国籍を持つ者の職業選択の自由」を侵害していると判断されるかどうかが、公正取引委員会や地裁での大きな争点になるはずです。
4. サラリーキャップ(年俸総額制限)導入
クラブ全体の人件費を抑えるにはサラリーキャップ制の導入が考えられると思いますが、日本ラグビー特有の「社員選手」という存在が、リーグワン全体のサラリーキャップ導入を難しくさせている大きな要因の一つです。プロ選手であれば「年俸」という明確な数字で管理できますが、社員選手が混在している状況では、報酬の「不透明性」と公平性の確保、労働法・独占禁止法上のリスクあるいは日本独特のセカンドキャリアモデルなど、いくつかの実務的・法律的なハードルが生じます。
そのためリーグワンは「金銭(サラリー)」を直接縛るのではなく、「人数(出場枠)」で縛る道を選んだと言えます。サラリーキャップを導入できない代わりに、実質的に高額な海外出身選手の「椅子」を減らすことで、結果としてチーム全体の総人件費を抑制しようとする「苦肉の策」が、今回のカテゴリーA2新設という形に現れていると考えられます。
5. カテゴリC枠の減少
例えばカテゴリA枠は既存のままで、カテゴリC枠(海外代表歴のあるいわゆる大物選手)を3人から2人に減らすという案もあるかと思いますが、「経営の健全化(支出抑制)」という観点では非常に合理的ですが、リーグワンの「商業的価値」や「世界戦略」とのトレードオフになるという難しさがあると思います。
確実な人件費抑制、「日本人選手」の出場機会増、あるいは資金力によるリーグワン内の格差是正というメリットがある一方で、「世界最高峰」という看板の危機による放送権料やチケット収入への影響、お手本としていた選手減少による若手日本人選手の成長鈍化、海外マーケットへの影響というデメリットも考えられます。
もし、リーグワン側が「カテゴリーCを減らす」という施策を念頭に置きながら、「カテゴリーAを細分化する(A2を作る)」という道を選んだのであれば、「スター選手(C)は呼び続けたいが、帰化選手(A2)による実質的な『外国人だらけ』の状態は解消したい」という、いいとこ取りを狙ったからだと言えるかもしれません。「カテゴリーC」を1人減らす方が、経営的にはインパクトが大きく、かつ今回のような「国籍による差別」という法的なリスクも避けられたはずです。ただ「カテゴリーCを減らす」という選択をした場合、枠を2人に絞る代わりに、その2人には青天井の年俸を許容するのか、青天井なら結局資金力のあるチームが有利になりクラブ格差は変わらない、有名選手がいなくなることでにわかファンが離れてしまわないか、そもそも構造改革としてはやや弱いなどの議論も予想されます。
6. まとめ
今回の新制度を個人的に踏み込んで言うと「競技改革」と「経済調整」を同時にやっている印象です。つまり表向きは「日本人育成・出場機会確保」としていますが、裏側には「外国人依存とコストの是正」が見え隠れします。高騰する外国人選手の年俸の抑制というのは完全に的外れではなく、むしろ構造的に避けられない動機の一つだと思いますが、勿論それを「主目的」と言い切ると、「育成問題(これは実際かなり深刻)」や「代表強化の論理」を過小評価することになります。
今回の問題の難しさは、
制度としては合理性がある(育成・財政)
しかし
個々の選手には強烈に不公平に見える
つまり
「正しい政策」と「正しい個人の権利」が衝突している
事だと思います。
ただいずれにせよリーグワン側は「選手側から”申告”された」という事実と、散見されている世論の反対意見については重く受け止めるべきだとは思います。
