モアナ・パシフィカ解散に思うこと


2026年4月17日

スーパーラグビー・パシフィック(SRP)のモアナ・パシフィカは4月15日、運営継続の経済的実行可能性の欠如により、2026シーズン限りでSRPから撤退しチームを解散することを発表しました。思うことを色々書きましたので、もしご興味あればご覧ください。



1. チーム声明

モアナのHPの声明を要約するとこんな感じです。

「モアナ・パシフィカは、2026年シーズン終了をもってスーパーラグビーから撤退し、フランチャイズを解散します。この決定は、ニュージーランドのプロラグビー界を取り巻く財政面・運営面・戦略面の課題を踏まえたもので、選手やスタッフ、ファンの尽力があったにもかかわらず、チームの継続は現実的でないと判断しました。チームは2020年に始動し、太平洋諸島出身選手の活躍の場を広げる存在として活動してきました。これまでの歩みとコミュニティの支援に感謝を示しつつ、今後は選手・スタッフの移行支援を行い、今季をもってその歴史に一区切りをつけます。」

全文はこちらです。



2. 撤退の直接的要因

モアナ・パシフィカは、サモアやトンガ、フィジーなど太平洋諸島にルーツを持つ選手によって編成されているチームであり、アイランダー(島嶼国出身者)の受け皿として期待されていましたが、以下の「現実」が壁となったと思います。

・オーナー側の経営難:チームの過半数株式を持つ「パシフィカ医療協会(PMA)」がニュージーランド政府との多額の契約を失い、ラグビーチームを維持する余力がなくなった。

・市場の小ささ:サモアとトンガを合わせた人口は約30万人と少なく、そもそも莫大な放送権料やスポンサー収入を期待できる市場ではなかった。

・拠点の問題:主なホームをオークランド(NZ)に置いていたため、本来のファンベースである島嶼国での試合開催が少なく、アイデンティティと収益の両立に苦戦した。



3. 太平洋諸国ラグビーの財政危機

サモアやトンガなどの小規模な協会は、慢性的な資金不足により「破産」の危機に常にさらされています。

① サモア(Lakapi Samoa)

・遠征の中止: 2024年、サモア協会は「破産を回避するため」として、多額の費用がかかる北半球遠征(欧州ツアー)からの辞退を余儀なくされた。

・政府との対立: 2026年初頭には、サモア政府が現在のラグビー協会への資金提供を停止し、別のラグビー組織を立ち上げる計画を発表するなど、内政面でも混乱が生じている。

・World Rugbyとの関係: 協会側は、世界的なラグビーの競争を維持するための「戦略的な介入と強化された資金援助」を強く求めている。

② トンガ(Tonga Rugby Union)

・ガバナンスの問題: 長年にわたり財務管理の不備が指摘されており、2020年にはWorld Rugbyからの資金提供が一時停止される事態に陥った。

・負債の累積: 過去には数億円規模の債務を抱え、政府や国際団体の支援によってようやく活動を継続している状態が続いている。



4. ナショナルラグビーリーグとの競合

チーム解散の極めて大きな要因の一つとして、13人制ラグビーのナショナルラグビーリーグ(National Rugby League、略称: NRL)との競合が考えられます。特にモアナ・パシフィカの拠点であったニュージーランドや周辺の島嶼国において、13人制(ラグビーリーグ)と15人制(ラグビーユニオン)の間では、限られた「資金」「選手」「観客」を奪い合う激しい競争が起きています。NRLとの競合が解散に与えた影響としては以下のようなことが挙げられます。

① 選手の引き抜きと「人材流出」

・魅力的な年俸: 潤沢な放映権料を持つNRLは、15人制よりも高い年俸を提示できるケースが多い。

・島嶼国ルーツのスター: 現在のNRLにはサモアやトンガにルーツを持つスター選手が非常に多く、若手選手にとっての「憧れ」と「現実的なキャリア」が13人制に傾いている。

・代表チームの躍進: 13人制のサモア代表がW杯で決勝に進出するなど成功を収めたことで、15人制よりも「13人制の方が世界で勝てる」というイメージが定着している。

② ニュージーランド国内での市場独占

・ウォリアーズの独走: モアナ・パシフィカと同じオークランドを拠点とするNRLチーム「ニュージーランド・ウォリアーズ」は、近年爆発的な人気を誇っている。

・スポンサーの奪い合い: 地元のスポンサー企業やファンは、歴史があり人気も高いウォリアーズに集中し、新興のモアナ・パシフィカは資金集めに苦戦した。

③ 太平洋諸国への直接進出

・フィジーへの進出: NRLは近年、フィジーでの試合開催やアカデミー設立など、パシフィック諸国への投資を加速させている。

・ビジネスモデルの差: NRLはリーグ全体が黒字経営であり、赤字に苦しむスーパーラグビーに対し、商業的な魅力で圧倒的な差をつけている。

つまりNRLとの競合は、モアナ・パシフィカが「収益性の高いスポンサーを得る」ことも「スター選手を繋ぎ止める」ことも困難にした、決定的かつ構造的な原因と言えます。



5. SRPのオーストラリアのチームが直面している同様の危機

今回のモアナ・パシフィカや数年前のメルボルン・レベルズの解散・撤退という衝撃的なニュースの裏で、オーストラリアの伝統ある名門チーム(レッズ、ワラターズ)もまた、「存続の危機」と隣り合わせの深刻な経営難に直面しています。 オーストラリアラグビー協会(RA)は、2024年度に約3,680万豪ドル(約36億円)という過去最大級の赤字を記録しました。この財政難が各チームに波及しています。

① NSWワラターズ:事実上の「国有化」

シドニーを拠点とする名門ワラターズは、かつての華やかさとは裏腹に、最も深刻な財政危機に陥ったチームの一つです。

・中央集権化への移行: 2023年末、深刻な赤字を抱えたワラターズは、経営権をRAに譲渡しました。これにより、現在はRAがチームの負債と運営を直接管理する「実質的な国有化」状態にある。

・ファンの離反: シドニーという巨大市場にありながら、成績の低迷により観客数が減少。気まぐれなシドニーのファンはNRLやAリーグ(サッカー)へ流れており、商業的な自立が困難になっている。

② クイーンズランド・レッズ:唯一の「優等生」だが…

ブリスベンを拠点とするレッズは、現時点でオーストラリア国内で最も健全な経営を行っているチームです。

・黒字経営の維持: 2020年には約900万ドルの負債を抱えていましたが、選手やスタッフの減給を含む徹底したコスト削減により、4年連続で黒字を達成している。

・中央集権化への抵抗: 経営が健全であるため、RAによる直接支配(中央集権化)に対して強く反発しており、独自路線の維持を模索している。

・迫り来るNRLの脅威: しかし、本拠地ブリスベンはNRLの聖地でもあります。人気・資金力ともに圧倒的なNRLチーム(ブロンコスや新設のドルフィンズ)との競合により、有望な若手選手を13人制に引き抜かれるリスクに常にさらされている。



6. 最後の希望「2027年W杯」

モアナ・パシフィカの撤退後、オーストラリアの各チームが生き残れるかどうかは、2027年に自国で開催されるラグビーワールドカップがもたらす収益にかかっています。

・負債の完済: RAは2025年中に負債を完済し、W杯の収益で1億ドル規模の「投資基金」を設立する計画を立てている。

・リーグの再編: メルボルン・レベルズやモアナ・パシフィカが消滅し、10チーム体制となる2027年以降、より「収益性の高いコンパクトなリーグ」へと変貌できるかが鍵となる。



今回のモアナ・パシフィカの撤退に絡めて、少し話が飛躍してしまいましたが、SRPのNZ以外のチームについてずっと思っていたことをまとめてみました。オーストラリア在住の友人からは以前から「ユニオン相当やばいぜ」という話を聞いていました。自分もここ数年SRPの試合を観るにつけ、「あんまりお客さん入ってないなぁ」という印象を持っていました。自分は特にTOP14が一番好きなので、TOP14の各試合と比較すると観客数の差は歴然です。

当然ですが、南半球は世界のラグビー発展に不可欠ですので、これ以上SRP撤退チームが増えないことと、来期以降の収益性の高いコンパクトなSRP及び来年のオーストラリア開催のW杯が大成功することを祈るばかりです。