633 天使と悪魔の会話 - アイルランドと日本の女子ラグビー事情


2025年8月26日

第一章「天使と悪魔、久々の再会」

悪魔「よう、久しぶりだな」
天使「あ、悪魔さん、何しに来たんですか?」
悪魔「なんだよ、随分な言い草だな」
天使「悪魔さんが来るとロクなことないですからね」
悪魔「まぁ、それは否定できねぇな」
天使「で、今日はどうしたんですか?」
悪魔「どうもこうもねぇよ、お前も観ただろ、日曜の試合」
天使「サクラ15のW杯初戦ですか?」
悪魔「あぁ、そうだよ」
天使「勿論、観ましたよ」
悪魔「だよな。で、どうだった?」
天使「負けてはしまいましたが、みんな精一杯プレーしてましたよね。大きい選手たちにも勇敢にぶつかっていって、倒れてもすぐまた起き上がって。大きな声も出してました。こちらにも十分気迫は伝わりましたし、素晴らしい試合だったと思います」
悪魔「さすが天使。クソの役にも立たねぇ感想だな」
天使「クソって。。。言葉に気を付けてください!」
悪魔「わりぃ、わりぃ。ただお前も Lenny に付いてる天使だからラグビー詳しいんだろ」
天使「は、はい」
悪魔「だったら本当はもっと言いてぇことがあるだろ」
天使「。。。私だって、こんな1ミリも建設的でない、薄っぺらいお涙頂戴の、ただの自己満足でしかないコメントなんか本当はしたくないんですよ」
悪魔「じゃあ本音で喋れよ」
天使「でもキャラ設定上、こういうコメントしか言えないんですよ」
悪魔「なんだよキャラ設定って」
天使「あ、すみません。こっちの話です(笑)」
悪魔「まぁいいや。じゃあオレが代わりに言ってやるよ」
天使「悪魔さん、すぐ感情的になるから、冷静に理路整然と話してくださいね」
悪魔「そんなこと分かってるぜ。じゃあまずは試合のメンバーからだな」
天使「はい」


第二章「アイルランド戦のメンバー構成」

悪魔「ちなみにお前は試合のメンバー見て、どう思ったんだ?」
天使「直近のイタリア戦のメンバーをベースにしたんじゃないですかね」
悪魔「まぁそれは正しいだろうな。じゃあ、なんでイタリア戦のメンバーをベースにしたんだってことだよ」
天使「う~ん。。。向こうに行ってコンディションが良かった選手ってことなんですかね」
悪魔「じゃあ聞くけどよ、なんでPR小牧日菜多/FL向來桜子/No.8ンドカ・ジェニファ/CTB小林花奈子/WTB香川メレ優愛ハヴィリ/FB松田凜日がメンバーに入ってねぇんだよ!こんなこと普通に考えてありえねぇだろ!!」
天使「ちょっと悪魔さん。大きな声出さないでください!冷静にって言ったじゃないですか」
悪魔「わりぃ、わりぃ。つい」
天使「それこそコンディションの都合とかじゃないんですか?」
悪魔「松田がケガが完治してなさそうなのは分かるけど、他の全員もコンディション都合なのか?」
天使「そんなの私にも分かりませんよ」
悪魔「ありゃ?お前にも分からないことがあるんだな」
天使「そうですよ、天使っていうのは設定なんですから」
悪魔「設定?」
天使「あ、すみません。こっちの話です(笑)」
悪魔「まぁ確かに、こればっかりはレスリーに聞かないと真相は分からねぇだろうな」
天使「そうですね。ちなみに悪魔さんは、なんでさっきの選手たちにこだわるんですか?」
悪魔「なんでって、全員【縦に強いから】に決まってるだろ」
天使「縦に、ですか」
悪魔「まず小牧。お前もスペイン戦観ただろ」
天使「確かに、あの試合の小牧選手は無双してましたね」
悪魔「そうだろ、アイツは元々CTBだったからな。アイツより走れるPRが他にいるか?」
天使「永田虹歩選手も縦に強いですよ」
悪魔「そ、そうだな。まぁいいや、次、向來!」
天使「あ~、向來選手。私も彼女が出場しないのは疑問でした」
悪魔「お~、今日初めて意見が合ったな」
天使「悪魔さん、ちょっと嬉しそうですね」
悪魔「バ、バカヤロー、そんなことねぇよ」
天使「ふふふ」
悪魔「とにかくだな、向來は縦に強いとかじゃねぇけど、絶対外しちゃいけねぇメンバーなんだよ」
天使「そう思います。向來選手はまだ若いのに、もの凄いキャプテンシーですよね」
悪魔「そうなんだよ。試合中ずっと一番でかい声でみんなを鼓舞してるぜ」
天使「ワークレートもサクラ1ですよね。タックルも強いんですよね」
悪魔「小柄だけど、めっちゃドミナントタックルかますからな」
天使「あと目つきも良いですよね」
悪魔「そうそう!W杯は戦争だからな。戦場で戦うにはあれくらいの鋭くて闘志溢れる目つきをしなきゃダメなんだよ」
天使「確かにですね」
悪魔「ちょ、ちょっと待て。なんでオレら2人が盛り上がってんだよ」
天使「すみません、つい(笑)」
悪魔「オレとお前とは設定上、対立しなきゃダメだろ」
天使「設定ってなんですか?」
悪魔「わりぃ、こっちの話だ。とにかくああいう選手が絶対チームに必要なんだよ」
天使「他にもいましたっけ?」
悪魔「あと誰だっけ?そうそうンドカ」
天使「はい」
悪魔「アイツのペネトレーターとしての役割は大したもんだろ」
天使「そうですね。ただこの試合は川村雅未選手が頑張ってましたね」
悪魔「ああ、川村も随分成長したよなぁ。。。ってヘンなこと言わせんなよ」
天使「ヘンじゃないですよ、ふふふ」
悪魔「そして小林」
天使「悪魔さん、小林選手の評価高いですよね」
悪魔「当たり前だろ。イングランドのプレミアでどれだけ活躍したと思ってんだよ」
天使「ハットトリックもしてましたよね」
悪魔「ただ何故かサクラ15の出番が少ねぇんだよな」
天使「どうしてでしょうね」
悪魔「レスリーの評価が低いんじゃねぇの?」
天使「でも小林選手に欧州行きを進めたのはレスリーさんですよね」
悪魔「さすが天使。詳しいな」
天使「いえ、それほどでも」
悪魔「だからこそ解せねぇんだよなぁ」
天使「ちなみに、なんで日本に戻ってきちゃったんでしょうね」
悪魔「お、良い質問だな」
天使「いえ、それほどでも」
悪魔「そこに日本ラグビー協会(JRFU)の問題が隠れてるんだよ」
天使「と、言いますと?」
悪魔「小林だってもっと向こうでやりたかったはずだぜ」
天使「確か2024-25シーズンまではエクセターとの契約が残ってたはずですよね」
悪魔「ああ」
天使「じゃあなぜですか?」
悪魔「ズバリ、金だよ」
天使「お金ですか?」
悪魔「女子のプレミアがプロリーグだって言っても、男子のように高収入のわけねぇだろ」
天使「はい」
悪魔「実際はセミプロリーグなんだよ」
天使「ええ」
悪魔「物価の高いイングランドで、個人として長期間活動するには金がキツイに決まってんだよ」
天使「ビザの問題もありますしね」
悪魔「だから、そこに JRFU が支援してやらなきゃいけねぇんだよ」
天使「そうですね」
悪魔「海外の有能な人材には JRFU として資金を投入する仕組みを作らなきゃいけねぇんだよ!」
天使「ちなみに、一人いくらくらい支援するべきなんですかね?」
悪魔「そんなの分かんねぇけど、せいぜい200~300万円くらいで済むんじゃねぇの」
天使「そもそも JRFU にそんなお金あるのでしょうか?」
悪魔「知らねぇよ。ただ世界中のラグビー協会がのきなみ赤字計上なのに、JRFU は黒字なんだぜ」
天使「そうなんですね」
悪魔「収入が80億7,000万円って世界の列強国並みだぜ」
天使「凄いですね」
悪魔「その割に支出が80億5,000万円って笑うよな」
天使「笑えませんよ!」
悪魔「一体どこにその80億が消えてんだって話だよな」
天使「悪魔さん、話が脱線してますよ」
悪魔「そうだな、あれ?何の話だっけ?」
天使「欠場してる優秀なメンバーについてですよ」
悪魔「そうそう、あと誰だっけ?」
天使「香川選手です」
悪魔「香川!!お前もスペイン戦観ただろ」
天使「観ました。大活躍でしたね」
悪魔「あんなに縦に強いWTB最近いたか?名倉ひなの以来じゃねぇか?」
天使「ご結婚されて、今は田代ひなのさんですね」
悪魔「あの試合のWTBのヤツ、なんでいつもあんな覇気のねぇ顔してんだろうな。この試合だって、アイツのせいで何点失点したんだよな。アイツの代わりに香川がいたらって場面が何度もあったよな」
天使「。。。あのぉ、今、思ったんですけど」
悪魔「なんだ?」
天使「悪魔さんが挙げてる選手たちって、全部 Lennyさんのお気に入りの選手ですよね?」
悪魔「ギ、ギクッ」
天使「だからその選手たちが出られないのを、ただひがんでるだけなんじゃないんですか?」
悪魔「バ、バカヤロー。核心突くんじゃねぇよ」
天使「核心?」
悪魔「いや、とにかくだな、アイツらが優秀なのはお前も分かるだろ」
天使「それは今年のプレーぶりを観れば、彼女たちがいかに優秀かは私でも分かります」
悪魔「レスリーはとにかく保守的過ぎるんだよ」
天使「それは私も感じます」
悪魔「メンバー選考だってそうだろ。」
天使「前回W杯とほとんど同じメンバーですね」
悪魔「オレに言わせりゃよ、スコッド外にも良い選手はいくらでもいるぜ」
天使「例えばどんな選手ですか?」
悪魔「まず、ながとブルーエンジェルスのSO新野由里菜だな」
天使「あぁ、新野選手ですね」
悪魔「あいつのキック観たことあるか?」
天使「ありますよ。全国大会のフェニックス戦で相当長い距離のPGを決めてましたよね」
悪魔「サクラもキッキングゲームを標榜するんだったらさ、新野くらい正確で距離の出るキッカーを使うべきなんだよ」
天使「新野選手はセブンズもやるのでランも良いですからね」
悪魔「YOKOHAMA TKMのHO小島晴菜とかもいいよな」
天使「スクラム強いですもんね」
悪魔「アイツはめっちゃトライ獲るからな」
天使「確かにですね」
悪魔「TKMと言えば、LO松永美穂も最高だよな」
天使「カザフスタン戦でデビューしましたよね」
悪魔「やっぱりLOだって走れなきゃダメなんだよ。他のFWDもそうだけどよ、ただFWDがタックルだけしてれば良い時代はとっくに終わってんだよ。相手がカザフスタンっていうのもあるけどよ、あの試合、松永が何回ラインブレイクしたかって話だよ。オレは絶対アイツはスコッドに入ると思ったけどな」
天使「タックルも良いですし、ラインアウトスチールも出来ますもんね」
悪魔「ああいう走れるFWDがもっとサクラに必要だと思うぜ」
天使「その通りかもしれませんね」
悪魔「あと誰かなぁ。。。」
天使「悪魔さん、ちょっと話が脱線しかけてますよ」
悪魔「別に脱線はしてねぇよ」
天使「キリがないので、あと1人くらいにしてくださいね」
悪魔「じゃあ、パールズのCTB古屋みず希かなぁ」
天使「渋いですね」
悪魔「いや、ホント渋いんだよ。アイツのプレーの端々にラグビーIQの高さを感じるぜ」
天使「気の利いたプレーが多い印象ですね」
悪魔「とにかくよ、相手は格上のアイルランドだろ。サクラは挑戦者なんだよ。だったらチャレンジするべきなんだよ。もっと攻撃的なメンバーで行くべきなんだよ。挑戦者が保守的でどうすんだよな。変化しないってことは、それすなわち停滞ってことなんだよ」
天使「アイルランドのメンバーは、3年前とかなり変わってましたもんね」
悪魔「それだけ競争が激しいってことだろ」
天使「そうですね」
悪魔「アイルランド戦のメンバー発表見たときの Lennyの野郎の落胆ぶりったら、マジで悲惨だったよな」
天使「はい、さすがの私たちも何も声かけられなかったですからね」
悪魔「Lennyの野郎は口は悪いけど、サクラ15に懸ける思いは人一倍凄まじいからな」
天使「日曜も試合前に一人で神社にお参りに行ってましたからね」
悪魔「そうだな」
天使「結局、理由は分かりませんが、結果的に彼女たちの欠場は、サクラにとって大きすぎる痛手でしたね」
悪魔「そうだな。。。ってお前が最後締めるんじゃねぇよ!!」
天使「てへへ、すみません(笑)」


第三章「アイルランドの女子ラグビー事情」

悪魔「でもよ、3年前は 29 - 10 で勝ったのに、なんでこんなに差が付いたんだろうな」
天使「私、それは思うところがあります」
悪魔「おう、聞かせてくれよ」
天使「きっかけは、恐らく2021年のヨーロッパ最終予選です」
悪魔「それって2021W杯ニュージーランド大会の出場権をかけた予選のことだよな」
天使「はい。その予選でアイルランドは3位になってしまい、W杯出場の望みが絶たれてしまったのです」
悪魔「それが何のきっかけになったんだよ」
天使「そこからアイルランドラグビー協会(IRFU)は、エリート女子選手たちにもプロ契約を提供することなどで、強化へ本腰を入れはじめたのです」
悪魔「なるほどな。ところでアイルランド女子ラグビーの構造ってどんな感じなんだ?」
天使「はあ、悪魔さんて何もご存じないんですね」
悪魔「バ、バカヤロー!本当は知ってるけど、説明系はお前に任せて、それにオレがツッコミ入れるっていう設定だって、さっき相談しただろ」
天使「あっ、そうでしたね。失礼しました(笑)」
悪魔「今の部分カットな」
天使「はい」
悪魔「続けろよ」
天使「え~と、まずアイルランド女子ラグビーは、以下のようなピラミッド構造になっています」



①クラブ(AIL Women’s)
 ↓
②州代表(Interprovincial Championship)
 ↓
③アイルランド女子代表(Ireland Women’s XV)


悪魔「ふむふむ」
天使「この流れで選手が育成されて、最終的にアイルランド代表になった選手たちが、シックス・ネーションズやWXVやW杯に出場します」
悪魔「なるほどな。じゃあ①から少し詳しく教えてくれよ」
天使「分かりました。まず①ですが、正式名称は All-Ireland League Women’s と言って、アイルランド国内最高峰リーグです」
悪魔「リーグワンみたいなもんだな」
天使「そうですね、ただリーグワンってリーグワン協会が主催してますよね」
悪魔「そうだけど」
天使「AIL Women’s は IRFU が主催してるんですよ」
悪魔「なるほどな。まぁ考えたらそれが自然な形だよな」
天使「いずれは代表へリンクするわけですからね」
悪魔「さっきプロ契約の話があったけど、AIL Women’s はプロリーグなのか?」
天使「いえアマチュアリーグです。選手たちは【仕事・学業+ラグビー】が基本になります」
悪魔「じゃあプロ契約ってなんなんだ?」
天使「プロ契約があるのは、アイルランド代表に選ばれた一部の選手のみです」
悪魔「そういうことか、まぁ大体分かったから、次行ってくれ」
天使「②は州の代表チームが参加する大会になります」
悪魔「州の代表?」
天使「先程の①に所属しているクラブから選手を選抜して州代表チームを編成して、州対抗戦を行うのです」
悪魔「それが Interprovincial Championship ってわけだな」
天使「そうです。Ulster(アルスター)、Munster(マンスター)、Leinster(レンスター)、Connacht(コナート) の4つの州代表チームが参加します。目的はさっきも言った通り、各州同士の対抗戦ですが、もう1つの重要な目的が、アイルランド女子代表の選考及び強化の場というわけです」
悪魔「もしかして、これも主催は IRFU なのか」
天使「さすがです、悪魔さん」
悪魔「いやぁ、それほどでもねぇよ。。。ゴホン、なんだか見えてきたぞ」
天使「その通りです。①も②も IRFU が主催することで、一貫性のあるスムーズな選手育成構造が保たれているのです」
悪魔「なるほどな。さっき聞き忘れたけど、①と②の試合数や方式も教えてくれよ」
天使「分かりました。まず①の AIL Women’s ですが、シーズンは秋から春にかけて開催されます」
悪魔「ふむふむ」
天使「参加チームはアイルランド各地の女子クラブチームで、Div.1, Div.2, Div.3 と3ディビジョン制に分かれています」
悪魔「それはリーグワンと同じだな」
天使「Div.1 はトップレベル、Div.2, Div3 はどちらかと言うと地域拡大や育成目的のためのチームって感じです」
悪魔「Div.1 は何チームあるんだ?」
天使「その年によって変動しますが、6~8チームくらいですね」
悪魔「試合方式はどんな感じだ?」
天使「総当たりのホーム&アウェイ方式ですので、1チームあたり1シーズンで10~14試合やりますね」
悪魔「当然、その後のプレーオフもあるんだろ?」
天使「はい、トップチームがプレーオフ/決勝戦で最終順位・優勝を決定します」
悪魔「やっぱり究極の目的は、女子代表への選手育成になるんだろ?」
天使「そうですね、ただその前に、州代表への選手育成が先ですかね」
悪魔「じゃあ、その②の Interprovincial Championship の試合形式も教えてくれよ」
天使「②は先ほども言ったとおり、4つの州のチームが総当たり(3試合)して、その後決勝戦を行います」
悪魔「じゃあ3~4試合やるってことだな」
天使「さっきも言った通り、大会の位置づけは、アイルランド代表の選考に直結する重要な強化大会ということですね」
悪魔「なるほどな。良く分かったぜ。じゃあ大体1シーズンに15~20試合くらいやるってことだな」
天使「はい、あとは女子シックスネーションズも入れれば、それにプラス5試合ということですね」
悪魔「でもさぁ、イングランドのプレミアに行ってる選手はいないのか?」
天使「流石、悪魔さん。勿論いらっしゃいますよ」
悪魔「だろうな」
天使「昨日の試合のメンバーだけでも6人いますね」
悪魔「そうなのか」
天使「2番ジョーンズ、5番モナハン、17番ペリーがグロスター所属ですね」
悪魔「おおっ、グロスターか、すげえな」
天使「あとは、7番マクマホンと16番のモロニーがエクセター所属です」
悪魔「あと1人は?」
天使「20番のムーアがトレイルファインダースです」
悪魔「玉井希絵ちゃんのチームだな」
天使「はい、そうです」
悪魔「じゃあその6人はプレミアだから、年間18試合はこなしてるってわけか」
天使「出番があればですけどね」
悪魔「まぁな。グロスターなんか優勝したから、準決勝と決勝もプラスってわけだな」
天使「その通りですね」
悪魔「そっか、じゃあやっぱりみんなWXVやW杯を除いても、年間20~25試合はやってるってことになるな」
天使「そういう計算になりますね」
悪魔「大体分かったぜ。最後にプロ契約選手のことも教えてくれよ」
天使「もう、悪魔さん、どんだけ知りたがり屋さんなんですか」
悪魔「うるせい!茶化すんじゃねぇよ」
天使「すみません(笑)。ですから、2021年のヨーロッパ最終予選の後、実際は 2022/23シーズンくらいからですかね、IRFU は優秀な選手たちに対してプロ契約を結んだわけですね」
悪魔「優秀な選手はラグビーを職業にできる状況になってるってわけだな」
天使「ポイントは、これはナショナルチームの強化契約であり、クラブ(AIL Women’s )からお給料をもらっているわけではないところですね」
悪魔「なるほどな、あくまで代表強化が目的のプロ契約だから、IRFU が金を出すってことだな」
天使「そうですね。でもこれってすごく自然なことですね」
悪魔「IRFU だってそんな儲かってねぇんだろ」
天使「でしょうね。それでも女子代表を強くしたいっていう思いで頑張ってるんでしょうね」
悪魔「おい、JRFU のポンコツコンビよ!聞いてるか!?」
天使「ちょっと悪魔さん、誰に話してるんですか」
悪魔「ちなみにどの選手がプロ契約を結んでるんだ?」
天使「2024/25シーズンだと全部で23名いるのですが、昨日の試合のメンバーだと11人がプロ契約選手ですね」
悪魔「そんなにいるのか」
天使「怪我で欠場した選手の中にもプロ契約選手はいますので、実際はもっとですね」
悪魔「そっか。。。 IRFU の断固たる決意みたいなものが感じられて感銘を受けたぜ」
天使「悪魔さんでも感銘を受けるなんてことあるんですね」
悪魔「茶化すんじゃねぇって言ってるだろ!」
天使「すみません(笑)。ところで日本の女子ラグビーってどんな感じなんですか?」
悪魔「おっ、よくぞ聞いてくれたな。やっとオレ様の出番が来たようだな」
天使「いえ、台本に聞けって書いてあるので」
悪魔「バカヤロー、裏事情をばらすんじゃねぇよ!」
天使「ふふふ、すみません(笑)」


第四章「タマゴが先か?ニワトリが先か?」

悪魔「まずだな、天使よ。心して聞けよ」
天使「な、なんですか」
悪魔「日本には女子の国内リーグってものが存在しないんだよ」
天使「。。。自分、おもんないなぁ」
悪魔「バカヤロー!これマジな話だぞ!!」
天使「えぇっ、本当の話なんですか?」
悪魔「ああ」
天使「そんな国があるんですか?」
悪魔「世界中調べたわけじゃねぇから分からねぇけど、上位国では日本くらいじゃねぇのか」
天使「そうなんですね、ショックです。じゃあ彼女たちは、いつどこで試合してるんですか?」
悪魔「15人制の大会って、3つしかねぇんだよ」
天使「はい」
悪魔「関東大会と関西大会。そして両大会の上位2チームずつが出場できる全国選手権だな」
天使「それぞれの参加チームと試合数はどれくらいなんですか?」
悪魔「前回の関東大会は7チーム出たから、試合数は6試合だな」
天使「1年間でたったの6試合。。。関西大会は?」
悪魔「単独が2チーム、合同が3チームの5チームだから4試合か」
天使「よ、4試合」
悪魔「これも上位と合同チームが当たると100点以上の差がつくから、試合の意義は無いに等しいな」
天使「全国選手権は準決勝と決勝ですか」
悪魔「そうだ。だから最高でも年8試合、最低だと4試合か」
天使「。。。言葉が出ません」
悪魔「まぁ、そうなるわな」
天使「そもそも国内リーグが存在しない理由って何なんですか?」
悪魔「こっからはオレの推測にしか過ぎねぇが、まずは金だな」
天使「やっぱりお金なんですね」
悪魔「リーグを運営するにはスポンサーの確保や財政基盤の安定が不可欠だろ。リーグワンは世界に名だたる企業チームを中心に成り立っているけどよ、女子ラグビーでは企業の支援がまだまだ十分じゃなく、リーグとして継続的に運営するための資金面の課題があると考えるのは当然だろうな」
天使「アイルランドの AIL Women’s もスポーンサーの支援やボランティアの方々のサポートによって運営できてますからね」
悪魔「あとは競技人口の少なさ、っていうんのもあるだろうな」
天使「と言いますと?」
悪魔「女子ラグビーの競技人口は男子に比べてまだ少ねぇから、国内リーグを成立させるのに十分なチーム数や選手層が確保できていねぇ可能性があるんだろうな」
天使「そうですね」
悪魔「さっきも言ったけど、メンバーが足りなくて合同チームとして大会に出るチームがあるくらいだからな」
天使「確かにですね」
悪魔「あとはセブンズの影響もあるだろうな」
天使「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズですね」
悪魔「そうだ。確か通常大会が3大会あって、ポイント上位の8チームで総合順位決定トーナメントをやるんだろ」
天使「毎回結構話題になってますもんね」
悪魔「これさぁ、実は JRFU が主催してるんだよな」
天使「えっ、太陽生命様が主催してるんじゃないんですか?」
悪魔「太陽生命はあくまで特別協賛してくれてるだけで、主催は JRFU なんだよ」
天使「じゃあ JRFU は15人制よりもセブンズの強化を優先してるんですか?」
悪魔「まぁ、そうとられても仕方ねぇだろうな」
天使「それは何故ですか?」
悪魔「そんなのセブンズがオリンピック種目だからに決まってるだろ」
天使「そうなんですね」
悪魔「まぁこれは単にオレの推測にしか過ぎねぇけどな。ただ、女子セブンズの躍進ぶりを考えてみろよ」
天使「毎回良い結果残してますよね」
悪魔「きちんとした国内大会が年に何回もあって、海外の大会にも年に何回も参戦できる機会があって、優秀なコーチ、選手がいれば、日本の女子でも世界で活躍できることを、女子セブンズが証明してるんだよ」
天使「。。。その通りかもしれませんね」
悪魔「去年くらいかな、Lennyの野郎がプレミア女子で活躍してる選手とDMで何度もやり取りしてるところを見たんだよ」
天使「だめですよ、人のメール見ちゃ!」
悪魔「彼女がイングランドで選手として今出来ること、やるべきこと、選手をリタイアしてから日本で出来ること。。。二人はさ、長時間にわたって、JRFU が今やらなきゃいけねぇこと、今後の日本女子ラグビーの発展について、物凄く熱い議論を交わしてたぜ」
天使「そんなことがあったんですね」
悪魔「その中で気になったのが、その選手が以前、協会関係者からこう言われたらしいんだよ」
天使「なんて言われたんですか」
悪魔「あくまでニュアンスだけどな。【女子の国内リーグ創設は時期尚早だ】と」
天使「はい」
悪魔「結局さ、競技人口も少ねぇ、人気もねぇ、認知度も低いから、国内リーグを作るにはまだ早いってことなんだろ」
天使「そうなんでしょうね」
悪魔「でも考えてみろよ、これってよ、タマゴが先か?ニワトリが先か?って話なんだよ」
天使「と言いますと?」
悪魔「今のままの国内の試合環境で、いきなりサクラ15が世界の上位になって、それがきっかけで競技人口も増えたりするなんてこと考えられるか?」
天使「普通は考えられませんね」
悪魔「だから JRFU は女子15人制に投資しろってことなんだよ」
天使「先行投資ですね」


最終章「すべては JRFU の覚悟」

悪魔「最初はどんな形だっていいよ。今の関東大会と関西大会をごっちゃにして、試合数をもっと増やすとかさ」
天使「それを将来、国内リーグという形に変えてしまえば、ってことですね」
悪魔「そうだよ。リーグワンのチーム傘下に入ることも1つの手だよな」
天使「メリットは沢山ありそうですね」
悪魔「リーグワンのチームは企業のバックアップを受けていることが多いから、女子チームが傘下に入ることでスポンサー獲得の可能性がもっと広がるだろ」
天使「クラブとしての運営ノウハウや設備を女子チームと共有することで、運営の負担も軽減できるでしょうね」
悪魔「チーム名だって、例えばサントリー・ウィメンとかにすればいいじゃん」
天使「イングランドやフランスはその方式を採用してますし、きっとチームブランドの強化に繋がるでしょうね」
悪魔「男女ダブルヘッダーでの試合とかも楽しいだろうな」
天使「そうですね。リーグワンの試合前に女子の試合を行えば、男子のファンが自然と女子の試合にも興味を持つかもしれませんね」
悪魔「。。。お前、なんだよさっきから。オレよりたくさん良い事言ってんじゃねぇよ!」
天使「ふふふ。私はただ補足してるだけですよ」
悪魔「まぁ実際そうなった場合は、男子チーム側のメリットをどう作るかがポイントだろうな」
天使「あの。。。また補足しても良いですか?」
悪魔「なんだよ、言ってみろよ」
天使「企業が女子チームの運営に投資するためには、スポンサー効果やPR効果などの企業メリットが明確である必要があります。現状では男子チームに比べて女子ラグビーの市場規模が小さいため、収益化の道筋を考える必要がありますからね」
悪魔「これからオレが言おうとしてたヤツな」
天使「ふふふ」
悪魔「じゃあ例えばよ、日本において女子ラグビーと契約してくれそうな企業ってどこらへんかな?」
天使「例えば SDGs やダイバーシティを推進してる企業ですかね。女子ラグビーは、女性アスリートの活躍推進やジェンダー平等の文脈で支援を受けやすい分野ですから、例えば日本生命/アサヒグループ/花王/資生堂/P&G/ユニクロとかですかね」
悪魔「ふむふむ」
天使「あとは女子ラグビーは、【女性アスリート×健康×スポーツ文化】という視点で関連企業との親和性が高いでしょうから、明治/森永製菓/大塚製薬/RIZAP/ミズノ/アディダス/ナイキあたりはいかがですか」
悪魔「そ、そうだな」
天使「あとはワコールやLAVAなど、単純に女性向け商品やサービスを提供してる企業もありかもしれませんね」
悪魔「。。。もういいよ!いつの間に会話のイニシアティブ取ってんじゃねぇよ!」
天使「すみません、つい(笑)」
悪魔「色々話してきたけどさ、結局すべては JRFU の覚悟次第だよな」
天使「私もそう思います」
悪魔「アイルランドの場合は元々ピラミッド構造があって、新たにプロ契約を始めたってことで、厳密には日本の女子ラグビー事情とは違うけどよ、代表を強化したいって思いは同じだよな」
天使「そうですね」
悪魔「だからさ JRFU には本当に真剣にサクラ15のことを強くするんだっていう、断固たる覚悟をしてもらいたいよな。その一環として、HCの交代も視野に入れた方が良いかもしれねぇな」
天使「そうかもしれませんね」
悪魔「まぁどんな形でもいいからさ、とにかく彼女たちの年間の試合数を増やすことような仕組みと環境の構築に命を懸けて欲しいぜ」
天使「サクラ15のみんな、本当に頑張ってますもんね」
悪魔「。。。」
天使「悪魔さん、どうしたんですか?泣いてるんですか?」
悪魔「バカヤロー、泣くわけねぇだろ」
天使「だって涙が」
悪魔「。。。いや、本当にサクラ15のみんな頑張ってるよ。学生の子もいるけど、ほとんどが仕事と両立してるんだろ。このクソみてぇなラグビー環境の中で、仕事も頑張って、グラウンドでは汗水たらして、怪我と格闘して、何度でも立ち上がって、でも思うような結果が出ねぇ。それでも何度でも何度でも立ち上がって、青春の全てを、人生の全てをかけて挑戦してるんだぜ。それを思うと、せつなくて、悔しくて、歯がゆくて、胸が張り裂けそうだよ。流石のオレだって泣けてくるぜ」
天使「悪魔さん。。。」
悪魔「彼女たちが、なんでそこまでするのか。お前にその理由が分かるか」
天使「はい。分かります」
悪魔「じゃあ、せーので言うぞ。せーの!」
二人「ラグビーが、好きだから!!!」
。。。
。。。
。。。
悪魔「いつか、いや、すぐ近い将来、彼女たちの想いが報われる日が来るといいな」
天使「本当ですね」
悪魔「。。。おい!なんで最後二人でしんみりしてんだよ!」
天使「なんでって、悪魔さんが泣きだすから(笑)」
悪魔「バカヤロー、泣いてねぇって言ってんだろ」
天使「ふふふ」
悪魔「そもそもよ、今日はなんかおかしかったぞ」
天使「どうしてですか?」
悪魔「オレ達は天使と悪魔っていうくらいだからよ、いっつも喧嘩してなきゃいけねぇんだよ」
天使「そうでしたね」
悪魔「それが今日は、なんか途中、博士と助手みたいに同じ方向性で進んでたじゃねぇかよ」
天使「たまにはこういう日があっていいんじゃないですか」
悪魔「。。。まぁ、それもそうだな」
天使「じゃあ悪魔さん、また色々お話ししましょうね、さようなら」
悪魔「。。。あばよ!」

おわり