568 『超速ラグビー』に関する個人的考察
2024年11月25日
エディが標榜してきた「超速ラグビー」(以下、超速)について、ある1つの切り口から考察してみました。あくまで個人的な考察ですので、不備はあると思いますが、その点はご了承の上、ご興味ある方だけご覧ください。建設的なリプは大歓迎ですが、ただの「批判警察」は無視します。
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まず、個人的に理解している「超速」の定義や特徴は、以下の通りです。
◆ 「超速」の定義
「超速」とは、ラグビー日本代表が掲げる戦術コンセプトであり、その名の通り「速さ」を軸にしたプレースタイルを指します。特に日本代表は、体格的に他国の強豪チームに劣ることが多いため、その弱点を補うために開発された独自のスタイルです。この戦術は、選手たちが持つ機動力、スピード、そして持久力を最大限に活かし、相手のディフェンスラインを崩すことを目的としています。
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◆ 「超速」の特徴
①テンポの速いアタック
素早いボール展開と連続的なアタックで、相手がディフェンスを整える前にアタックを仕掛けます。これにより、ディフェンスラインのギャップを狙いやすくなります。
②ハイペースな試合運び
試合中のテンポを高めるため、迅速なリスタート(ペナルティキックやスクラム後のプレー再開)を重視します。これにより、相手に休む暇を与えず、疲労を誘います。
③俊敏なサポートプレー
アタックやディフェンスにおいて、選手同士が密接に連動し、迅速にサポートし合う動きが求められます。これにより、ボールが奪われてもすぐに奪い返しやすくなります。
④タックルとプレッシャーの徹底
ディフェンスでも高いプレッシャーをかけることで、相手の判断ミスを誘発します。特に相手の動きを素早く封じ込めることを重視しています。
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◆ 「超速」考察の切り口
「超速」を考察するには、以下のような色々なファクターが考えられると思います。
①ラックスピード
ラックからボールを出す速さ
②ラインアウトインターバル
ボールがタッチに出てからラインアウトに投げ入れるまでの速さ
③ディフェンス
前に出たり、ラックから脱出したり、リロードする速さ
④キック処理
キックされたボールを直接捕球できたか、あるいは地面にバウンドした後に捕球したか
⑤ブレイクダウン
ボールキャリアへのサポートの速さ
恐らく、他にも考えられるファクターはあると思います。しかし、自分はプロのアナリストではありませんので、これらのファクターを分析するだけの数値を持っていません。自分が着目したのは、『Kick To Pass Ratio(キックとパスの割合)』です。このスタッツは、文字通り、『キック1回に対して、パスを何回したかの比率』で表されます(例えば 1:5 であれば、キック1回する間に5回パスをした、となります)。この数値は、後述の RugbyPass のサイトで、誰でも閲覧できます。厳密に言えば、自陣でパスをしたのか、敵陣でパスをしたかで、パスの有効性は変わると思いますが、そこまでは数値で表せません。つまり、
・数値が大きければ、パスとラン中心のゲーム
・数値が小さければ、キック中心のゲーム
・その中間ぐらいのゲーム
という、試合の傾向が分かると思います。
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◆ 各国の『Kick To Pass Ratio』
ランキング上位10チームの直近5試合の数値をまとめてみました。数値はキック1回に対するパスの回数です。
全10チームの平均は約7回でした。各国とも、チームの特徴がよく表れていると思います。例えば、フランスやイングランドなど、FWDが強くて、良いキッカーのいるチームは、数値が小さいので、キック中心のゲーム運びをしていることが分かります。逆にニュージーランドやスコットランドなど、自慢のBACKS陣を要するチームは、数値が大きく、パスとラン中心のゲーム運びをしていることが分かります。さらに注目すべきは、ランキング上位2チームの南アフリカとアイルランドです。両チームは、対戦相手によって、完全にその日の戦略を変えています。南アフリカは、メンバーすら余裕で大幅に変えています。
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◆ 日本の『Kick To Pass Ratio』
日本の数値は、画像の通りです。日本の平均は約8.6回でした。勿論、「超速」を標榜していますので、数値が高いのは当たり前ですが、残念ながら結果が伴いませんでした。
これは本当に個人的な推測ですが、今年の試合における戦略は、以下のような感じだったのではないでしょうか。
①イングランド戦
「超速(=パスとラン中心のゲーム)」がどこまで通用するか試す。
②マオリオールブラックス戦 #1
もう1度「超速」を試す。
③マオリオールブラックス戦 #2
2連敗したので、一旦「超速」は止めて、キック中心のゲームに変更する。
④ジョージア戦
やっぱり「超速」を試す。
⑤イタリア戦
まだ「超速」を試す。
⑥~⑧:実力差が大きいので省略。
⑨フィジー戦
PNCの優勝が懸かった大事な一戦なので、「超速」の比重は落とす。
⑩ニュージーランド戦
PNCから1ヶ月空いたので、再び「超速」を試す。
⑪フランス戦
再度「超速」を試す。
⑫ウルグアイ戦
マストウィンの試合の為、「超速」は止めて、キック中心のゲームに変更する。
⑬イングランド戦
今年最後に「超速」を試す。
前述しましたが、「超速」のファクターは『Kick To Pass Ratio』だけではありませんので、この推測が正しいとは決して断言はしませんが、印象としては上記の通りです。
注目すべきは、③マオリオールブラックス戦 #2です。この試合の数値が突出して低いです。対戦相手の力量を考えると、個人的には、この試合が今年のベストゲームだったと思っています。先発SOは山沢、交代が立川でした。
もう1つ注目すべきが、⑩ニュージーランド戦と⑪フランス戦です。この2試合の数値が突出して高いです。もし、強豪国相手に「超速」が通用するとでも思っていたら、無謀の極みとしか言えません。
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◆ 「超速」の弊害
ここからは数値に基づいたものではなく、単なる個人的な見解ですので、改めてご承知おきください。
①疲労
エディの理想は『80分間、「超速」を続ける』ことです。試合開始から、緩急つけずにエンジン全開で「超速」を続ければ、試合途中でガス欠になります。体力や判断力の低下は、ディフェンスは勿論、アタックにも悪影響を及ぼすと考えられます。強豪国は、途中でそのスピードにも慣れてきますし、キックが少ないのであれば、より前にディフェンスを詰めたりすることでしょう。また日本が自陣からでもボールを回してくることが分かれば、相手はテリトリー優先の試合運びに変更するかもしれません。
②選手選考
自分の中では、「超速」では SH が SO も兼任してるイメージです。それくらい SO からのキックを軽視しているように見えます。つまり SH からのボールの供給先が SO である必要が無いのです。イングランド戦では、ボールの供給先に、たまたま CTB が3人いただけなのかもしれません。とにかくテリトリーを獲得するためのキックはあまり蹴らずに、スペースに闇雲に飛び込んでいくだけですので、SO と同様、FB も極論不要になります。勿論、コンディション不良等の理由等もあったでしょうが、これがエディの選手選考において SO と FB を軽視しているように見える理由なのではないでしょうか。
前述しましたが、SO や FB などが蹴ってこないのが分かれば、相手ディフェンスは前に詰められます。精度の高いキッカー、ロングキッカーがいなければ当然、蹴り合いで負け、テリトリーを奪われます。ハイボール処理が不慣れな選手が多いのであれば、ボール獲得率も下がるでしょう。プレースキックが上手に蹴れる SO が不在の時もありました。SH しか蹴れる選手がいない為、代わりの SH が出場できない場面も見られました。そして、特に WTB や FB の選考においても攻撃面を重視してるように見受けられます。あえて名前は出しませんが、ポジショニングを含め、ディフェンスに難がある選手が多いように見えました。
③練習内容
『合宿では、攻撃を中心に練習している』という記事を見たことがあります。冒頭の「超速」の特徴でも書きましたが、ディフェンスは重要です。「超速」に限らず、ディフェンスは最も重要です。
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◆ 最後に
今年のテストマッチが終わり、協会はエディの評価を実施すると言っています。まずはその評価が、適切で有意義なものであることを祈るばかりです。来年の HC が誰になるかは分かりません。ただ「超速」は一旦封印しても良いのではないでしょうか。あくまで「超速」は1つのオプションとして認識すべきでだと思いました。敵陣22mに入ったら、思う存分「超速」を発揮すれば良いかと思います。数値にも表れていたと思いますが、世界各国、基本的にキックを重要視しています。それが世界のスタンダードです。志高く「超速」を標榜したのは、ある意味賞賛されるべきだとは思いますが、半年戦ってきて、理想と現実の乖離は大きく、W杯までの残りの期間で、それが埋められるものとも思えません。ラグビーの基本を見直し、泥臭く一歩ずつ成長した方が良いのではと思います。今はまるで、基本問題も解けないのに、応用問題にチャレンジしてるようにしか見えません。
選手選考についても思う所は沢山ありますが、送り出す側のチーム事情、コンディション事情、選手本人の意志など、こちらでは伺い知ることが出来ない要素が多分にあると思われますので、止めておきます。ただ「超速」に囚われずに、本当に実力のある選手の選考を望みます。イングランド戦のベン・ガンターの活躍が象徴的だと思います。ガンターは、半年出場し続けている誰よりも活躍しました。
イングランド戦後の選手のインタビューも読みました。変わらずに「超速」をアイデンティティとする選手、今のやり方に危機感を持っている選手と、様々でした。今こそ協会の腕の見せ所ではないでしょうか。
最後に、本題からは脱線しますが、若手の発掘及び育成は、HC が率先するのではなく、協会に任せた方が良いのではないでしょうか。有望選手を集めて、昔の NDS や他国におけるA代表(第2代表)のようなチームを作り、HCと同じ目線を持ったコーチ陣が育成し、正代表と連携しつつ、彼らにも独自のマッチメイクの機会を与えるような仕組みが、本当に必要な時期に来ていると思います。
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◆ 参照スタッツ:RugbyPass
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