259 教育者 - 岩出 雅之


1. 来歴


1958年和歌山県生まれの63歳。

1980年日本体育大学体育学部卒業。日本体育大学ラグビー部ではフランカーとしてレギュラーで活躍し、大学4年次には主将としてチームをまとめた。1978年全国大学ラグビー選手権大会では決勝で明治大学を破り同大学2度目の大学日本一になる。

日本体育大学を卒業後、滋賀県立八幡工業高等学校に教員として勤務。同校を7年連続花園出場に導いた。

その後、高校ラグビー日本代表監督を歴任し、1996年より帝京大学ラグビー部監督、帝京大学経済学部講師に就任。

第46回(2009年度)全国大学選手権では決勝で東海大学に勝利し同部を創部40年目にして初の大学日本一に導いた。
第47回(2010年度)は決勝で早稲田大学に勝利。
第48回(2011年度)も決勝で天理大学に勝利し、今まで同志社大学しか達成していなかった史上2校目となる全国大学選手権大会3連覇を達成。
第49回(2012年度)も決勝で筑波大学に勝利し、史上初の4連覇を達成した。

2014年度の日本選手権1回戦 でNECに 31 - 25 で勝利し、悲願の「打倒トップリーグ」を達成した。

その後、連覇の記録を前人未踏の『9』まで伸ばした。

そして今日、第58回(2021年度)全国大学選手権で明治を 27 - 14 で下し、4大会ぶり10度目の日本一を決めた。


2. チームづくりの転機


1997年、岩出さんが監督就任2年目、ラグビー部は、部員の不祥事で1年間、公式戦を辞退することになった。

「とても厳しい体験でした。選手も親もつらいし、関わっている人間すべてがつらかった。ラグビーオンリーではなく、人生のゴールに向けてラグビーというエネルギーをどう使うか、を一所懸命考えました」

生活全般を見直したらしい。挨拶、掃除、規律の順守。
「朝起きて学校に行く。講義を真面目に聴く。練習はさぼらない」と説いた。すべての部員を寮に入れることにした。集団生活のなかで「規律」の大事さを学ばせるためだ。

組織の見直しも行った。「学生コーチ」の制度化。新4年生はまず、ミーティングを開き、2人の学生コーチを選出。学生コーチを決めた後、新キャプテンを選出する。「狙いは、先頭を走るのは学生であることを自覚させることにあった」

さらなるチームづくりの転機は2001年の大学選手権1回戦。このチームなら決勝進出も、と臨んだが、けが人が続出、負けるはずのないチームに負けた。

「どうしてこうもうまくいかないのか。責任を感じ、進退についても考えました。でも、チームが勝てるようになるまで絶対に諦めるわけにはいかないと覚悟を決めて、再スタートを切ったんです。なぜ、けがをするのか。けがをしないための体づくり、環境づくりに取り組みました」

栄養士が、練習メニューに合わせ、カロリー計算をして献立をつくることになった。改革は食生活だけにとどまらなかった。練習環境の整備を行った。

「潤沢ではない部費を節約して、毎年、100~150万円ぐらいかけてウエイト器具を買い足していった。トレーニング場ができるまでは、学校の部室の廊下などで筋力トレーニングに励んでいました」

結果が出てくると、大学側もサポートする。大学選手権でベスト4に入った翌2003年、土のグラウンドから、現在の人工芝のグラウンドに移転。2004年、トレーニング場が完成し、2007年、天然芝のサブグラウンドもできた。

そして、栄冠を勝ち取る。2009年度の大学ラグビー選手権では決勝で東海大学に勝利、創部40年目にして初の大学日本一になった。

勝ちに転じた要因は何か。

「人は成功体験を生かそうとします。それは悪いことではありませんが、しょせんは過去の経験にすぎません。私も就任後まもなくは『早く結果を出したい』との思いから、自分の成功体験に基づく練習法で部員を鼓舞してきました。けれど時代とともに教育方法も人も変化しますから、時代にフィットする指導へと見直す必要がありました」

重要となってくるのが『勝利の目標(今のこと)』『人生の目標(未来のこと)』をダブルゴールで押さえること。今も未来も幸せにするための試みを始めてから、部員たちは物事を大きく捉えられるようになったという。負けにもちゃんと意味があり、いつか幸せが訪れると考えることで、勝敗に一喜一憂しなくなったとのこと。


3. 岩出さんは教育者


部員たちは全寮制のもと共同生活を送っている。岩出さんはグラウンドを離れてからも、一人の教育者として部員たちの生活を見守っている。

「日本一を目指すには、ピンチでもチャンスでも、持つ力の全てを出し切らなくてはなりません」

岩出さんが目指す「全力を出し切る練習」とは、まずは日常を安定させ、平凡な毎日をいかに高められるかだという。そのため、共同生活を通してあいさつをはじめ人としての作法を徹底的に学ばせる。

また第三者に頼るのではなく、自分で目的意識を持ってトレーニングに励むことも大事なことだ。部員の自主性を鍛えるために、岩出さんは「脱体育会系」指導法を実践する。例えば、トイレ掃除などの雑用は上級生が率先して行うことなどだ。これは、いわゆる体育会系文化の真逆である。指示や命令で弱い者を支配しようとする文化は、受け身で、考えない人間を形成するだけだからだ。

「一年次で学んでほしいのは、雑用の手順ではなく感謝の心です。上級生が模範となることで、『あんな人間になりたい』と尊敬の念が生まれます。僕らは日本一のチームである自負があるからこそ、新しい仲間には一番初めにこのチームを好きになってほしい」

例えば、ビジネスマンの仕事観が新卒で入ったファーストキャリアで決まってしまうことが多いように、スポーツの世界でも入部一年次に愚痴を言う環境か幸せを感じる環境かどちらに身を置くかで、2年目以降の頑張りが著しく変わってくる。

「一年次はなにかと未熟ですので力のない者に責任を負わせすぎると精神的に疲れてしまいます。体力と同様に、精神力も日々の訓練で鍛えることによって耐性がついてきます。最初から求めるのではなく、部員全員と共に歩み、夢を共有することによって情熱を持ってもらえればいいのです」

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今日、岩出さんの記事を色々読み返して思ったことは、岩出さんは卓越したラグビーの指導者でもあるが、根っからの教育者でもあるということ。若者たち1人1人の青春を預かり、根気と情熱を持って魂で接すれば、(当時)高校時代の実績は他大学と比較しても傑出したものではない普通の選手でも、あれだけのこと(9連覇)ができるのだと改めて感じた。

以前の『#ラグビー豆知識 321』でも紹介したが、帝京大学は現在72人(ランキング1位)ものリーグワンプレイヤーを送り出しているのも頷ける。帝京大学が日本ラグビー界にもたらした功績は計り知れない。

岩出さんにはまずはゆっくり休養していただいて、個人的にはいつの日かまた現場(出来れば代表関係)に戻ってきて欲しい。長い間本当にお疲れ様でした。ありがとうございました。



Lennyの#ラグビー豆知識

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