054 スクラム職人 - 長谷川 慎
2021年8月17日
サントリーを辞めてヤマハに加わる前、長谷川コーチは清宮さんの勧めでフランスに留学し、スクラムを学びました。強豪チームに出向き、ナショナルチームの練習にも参加しました。
フランスには『スクラム研究所』なるものがあって、普通は他国のラグビー関係者には中までは見せないのですが、長谷川コーチだけには見せてくれたそうです。研究所の部屋の壁にはシックスネーションズの写真が貼ってあり、試合会場と同じボリュームで観客の声まで流し、その中でスクラム練習をする。全てが実戦形式の環境らしいです。
フランスでの長谷川コーチの経験と知見がヤマハのスクラムに生かされ、チームを2014年度の日本選手権優勝に導きました。
長谷川コーチがジャパンのスタッフに加わったのは2016年秋です。その経緯について、清宮さんはこう語りました。
「ジェイミー・ジョセフは『ヤマハのスクラムが1番いい』と常に僕に言っていました。それで『長谷川を貸してくれ』という話になったんです。長谷川を貸すということはヤマハのスクラムを外に出すことと同義ですが、僕は『喜んで』と送り出しましたよ。」
清宮さんは続けます。
「彼は、スクラムの技術を言葉で伝えることのできる日本で唯一の男です。スクラムの動きを『こうやって』と大雑把に指示するコーチはいっぱいいるけど、彼はそうじゃない。例えば『内側の足をあと1センチ下げて』『右ひざをあと3センチ沈めてみろ』『肩の付け根を使うんだ』といった具合に、具体的に伝えることができるんです。」
長谷川コーチが常々口にするのは「8人の力を漏らさず伝える」スクラムです。FW8人16本の足、80本の指の位置はもちろん、ひざ、足首の角度、地面に刺さるスパイクの歯の数にまでこだわります。
長谷川コーチいわく…
「他国に比べると、日本のFWは重量やパワーの点でかなわない。そんな中、我々の持っている力を最大限漏らさず伝えるには、どうすればいいか。そこがポイントです。崩されそうになったら、8人全員でシンクロして、力の漏れそうな部分を埋める。それが他国にはない我々の強みだと思っています。」
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