ラグビー界のフィリップ・マーロウ - ベン・ガンター
2026年9月21日
「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」
これは、米国人作家、レイモンド・チャンドラーの小説「プレイバック」に登場する私立探偵フィリップ・マーロウが一緒にいた女性から「あなたのようにしっかりした男がどうしてそんなに優しくなれるの?」と尋ねられたときの言葉だ。
雄大な肩幅と分厚い胸板から迫力満点のタックルを繰り出す男、ベン・ガンター。
ガンターは、仲間が良いプレーをした時に、真っ先に駆け寄って抱き寄せたり頭を撫でる。それはトライをした時だけではない。良いタックルをした時、良いジャッカルをした時、良いスクラムを組んだ時。毎回だ。時にはミスをした選手にも駆け寄ってくれる。
この行動の背景を勝手に考えてみた。
ガンターは、オーストラリアの地方都市の過酷な環境で育った。元々はプロのクリケット選手を目指していたが挫折し、一時は工場で働きながらラグビーを続けるという苦労人だ。2016年にパナソニックに練習生として来日し、そこから這い上がって日本代表の座を掴み取った。エリート街道ではない激しい苦労を経験しているからこそ、「最高の仲間と舞台に立てる感謝」が人一倍強く、仲間の活躍を心から祝福できるのではないか。
ガンターは日本代表が掲げる「結束力」を誰よりも体現している。身体を張って泥臭い仕事をこなすプレースタイルだからこそ、仲間の輝かしいプレーに即座に反応し、ハグやスキンシップでチームの絆をその場で補強してるのではないか。
過酷なラグビーにおいて、ポジティブな感情の伝染は勝利に不可欠だ。ガンターが熱量を持って駆け寄ることで、プレーした本人だけでなくチーム全体の士気を爆発的に高める役割を果たしているのではないか。
もしこの考えをガンターにぶつけたら、きっとこう言うだろう。
「特別な理由なんてないよ。僕にとっては、楽しい時に笑うのと同じくらい自然なことさ」
