歴史に残る決勝 - 神戸 vs クボタ


2026年6月7日

リーグワン2025-26 決勝
神戸 22 - 13 クボタ

歴史に刻まれるべき、美しき死闘だった。

矛と盾が最高純度で激突し、名プレーが次の名プレーを呼び、奇跡が連鎖する。まるで二つの恒星が互いの重力をぶつけ合うかのような、濃密にして崇高な80分。リーグワン史に残る決勝戦だったと言って差し支えないだろう。

私は試合を振り返る際、往々にして課題や反省点の方が強く記憶に残る。しかし、この日の記憶に浮かぶのは鮮烈な好プレーばかりである。

クボタでは、HO江良の魂を削るようなタックル。
FL末永の終わりなきハードワーク。
SH岡田の躍動感あふれるゲームメイク。
CTB廣瀬のジャッカルから響いた雄叫び。
WTB根塚のタッチライン際を舞うようなラン。
FBスティーブンソンの鮮やかな50:22。

一方の神戸もまた、数々の輝きを放った。
PR高尾の渾身のジャッカル。
PR山下の円熟味あふれるスクラム。
LOレタリックの圧倒的な牽引力。
FLサヴェアの全身全霊を注いだプレー。
SH上村の日和佐篤直伝とも言うべき流麗な球捌き。
SO李の冷徹なプレースキック。
WTBブルアの神出鬼没の突破。
CTBレイナートブラウンの卓越したコネクト能力。
FB「坊」の百戦錬磨のベテランを思わせる余裕。
PR具の乾坤一擲のスクラム。

では、結局のところ勝敗を分けたものは何だったのか。

・李承信の高精度キックか。
・前半劣勢の流れを引き戻したブルアのトライか。
・あるいは「赤い壁」と称される神戸の後半の堅守か。

いずれも間違いなく重要な要素である。

しかし個人的には、勝敗を決定づけたのは「神戸の選手一人ひとりが積み重ねた、わずかな前進」だったように思う。

クボタはこの日、レギュラーシーズン首位チームが誇った圧倒的攻撃力を見事に封じ込めた。相手ディフェンスが整う前に連続フェーズで外へ展開し、一気に得点を奪う神戸本来の形を、持ち前の堅牢な防御力によって寸断したのである。神戸に「気持ちよくボールを動かす時間」をほとんど与えなかった。実際、神戸のトライはわずか1本。クボタの守備がいかに機能していたかを物語る数字である。

それでも後半になると、神戸は接点で1メートル、2メートルと前へ出始める。ほんの半歩。だが、その半歩が積み重なることで風向きは変わる。岩をも穿つ水滴のように、神戸は少しずつクボタを後退させた。その結果としてペナルティを誘発し、李のPGへと結び付けたのである。スタッツを見れば、その変化は明白だ。クボタのペナルティ数は前半の4個に対し、後半は11個。神戸の圧力が、クボタの規律を徐々に削り取っていったことがうかがえる。

そして、デイブ・レニーHCの采配もまた見事だった。

前半16分、CTBイオアサの不用意な反則を契機にクボタへ先制PGを許すと、指揮官は早々にイオアサを下げ、百戦錬磨のリトルを投入した。コンディション面の事情があった可能性もある。しかし外から見れば、経験値を重視した決断にも映った。その期待に応えるように、リトルはブレイクダウンで存在感を発揮し、ジャッカルを連発した。

さらに後半開始からの具智元投入も効果的だった。山下の消耗を見越した既定路線だったのかもしれない。しかし、その一手がスクラムの圧力を維持し、神戸のゲームプランを支えたことは間違いない。そしてその土台の上で、李が冷静に得点を積み重ねていった。

何より特筆すべきはラインアウトである。神戸はクボタのラインアウトを徹底的に分析し、その成果を見事に試合で具現化した。積み重ねた準備を大舞台で寸分違わず遂行する――言葉にするほど簡単なことではない。クボタの攻撃リズムを分断し続けたラインアウトディフェンスは、まさに知略と研鑽の結晶だった。

スクラムも同様である。

本来クボタが優位性を築くべきセットプレーで、神戸は互角以上に渡り合った。相手最大の武器を鈍らせたことは、この勝利を語る上で欠かせない要素だろう。

技術論や戦術論を超えた視点で言うならば、神戸の勝因はただ一つである。

シーズンを通して積み上げてきたものを、決勝の舞台でも変わることなく出し切ったこと。

それに尽きる。

リーグワン初優勝が懸かる大舞台である。特に若い選手たちは、平常心を失っても何ら不思議ではなかった。しかしこの日の神戸は違った。レギュラーシーズン16勝2敗で首位を走ったときと同じラグビーを、最後まで遂行したのである。

もしこの決勝を一言で表現するなら、

「神戸が王者に挑んで勝った試合ではなく、神戸自身が王者として振る舞った試合」

だったのかもしれない。

一方で、クボタもまた全てを出し尽くしての敗戦だったと感じる。

・タイトなポストシーズンによる疲労の蓄積。
・複数の主力の欠場。
・後半におけるアタックの停滞。
・勝負どころで生じた規律の乱れ。

敗因として挙げられる材料はいくつも存在する。

しかし、それ以上に残るのは「よくやった」という感情である。

この日のクボタは、全ての局面で、全ての選手が、持てる全ての力を注ぎ込んだように見えた。燃え尽きることを恐れず、自らを薪として勝負の炎へ投じ続けた。その姿は敗者という言葉だけでは到底表現できない。

そして私自身にとっても、この決勝は特別な試合となった。

オレンジアーミーとして迎えた初めての決勝戦。歓喜と緊張が入り混じるスタンドで過ごした時間は、自らのラグビー人生の中でも忘れ難い一頁となった。私をオレンジアーミーとして迎え入れてくださった先輩方。そして、最高峰の舞台で最高のラグビーを見せてくれた神戸とクボタの両チーム。

ノーサイドの笛が鳴ったあとも、あの光景は心の中で鳴り続けている。

感謝しかない。

ただただ、感謝しかない。