3位決定戦、サントリーのメンバーを見て思ったこと
2026年6月4日
あえて個人的な視点から論じるなら、このメンバー表から伝わってくるのは、勝利への執念ではなく、シーズンの終幕を飾るための儀式性である。無論、外部からは把握し得ない事情も存在するだろう。負傷者のコンディション管理、来季を見据えた選手評価、チーム運営上の判断――そうした要素を完全に無視することはできない。しかし、それらを勘案したとしても、このメンバー構成が発するメッセージはあまりにも明確だ。
そこに見えるのは、最後まで勝利を追求する姿勢ではなく、「今季の締めくくり」を優先する発想である。
プロスポーツクラブとは、本来、勝利を至上命題として存在する組織である。観客は真剣勝負を期待してスタジアムへ足を運び、対戦相手もまた全力で勝利を目指して準備を重ねてくる。その中で、ほぼほぼシーズン通りの陣容を維持し、明確に勝利を目指す姿勢を示しているパナソニックに対し、サントリーのメンバー表から「勝利以外の価値」を優先する空気が漂う。
名門クラブが最も陥ってはならない思考がある。
それは、「優勝できなければ3位も4位も同じ」という発想だ。
確かに3位決定戦は優勝決定戦ではない。しかし、だからといって価値が失われるわけではない。最終順位は記録として残り、クラブの歴史に刻まれ、選手たちのキャリアにも反映される。何より重要なのは、その一戦に向き合う姿勢そのものである。常勝を標榜するクラブであれば、本来は一つでも高い順位を求め続けなければならない。たとえ優勝を逃した後であっても、勝利への執着を失わないことこそが強豪の条件である。もし「優勝でなければ意味がない」という論理を持ち出すのであれば、それは王者の哲学ではなく、敗北を正当化するための方便に近い。
勝負の世界において、勝利への執念を失った瞬間から衰退は始まる。
今回のメンバー選考に私が違和感を抱く最大の理由は、その構成そのものにある。小林、タタフは先週の怪我の影響であろうが、ホッキングス、下川、マクマーンがメンバー外となり、本来であれば先発が想定される流、亮土、コルビがベンチスタートとなった。一方で、今季の出場機会が限定的だった選手たちが多く起用されている。
もちろん、各選手の状態やチーム事情を無視して断定するつもりはない。しかし、少なくとも自分に映るのは「勝利のための最適解」ではない。
むしろ、
「出場機会の均衡」
「功労者への配慮」
「来季への布石」
といった複数の要素を優先した編成に見える。
問題は、それらが勝利より前面に出てるように見えてしまっていることである。
厳しく言えば、このメンバー表は勝負のための布陣というより、敗戦時の説明責任を果たしやすい布陣に映る。
・若手を試した。
・控え選手に機会を与えた。
・功労者を送り出した。
確かに、それらは敗北後の理由にはなり得る。
しかし、本当に勝利だけを追求するのであれば、本来そのような説明は必要ないはずである。
引退や退団を表明している流、中村、コルビへの敬意そのものを否定するつもりは毛頭ない。彼らは長年にわたりクラブを支え、多大な功績を残してきた選手たちである。しかし、その功績に報いる方法として「花道」を用意することが、本当に最善なのか。そこには疑問が残る。
競技者にとって最大の栄誉は、拍手や演出ではない。勝利である。
もし彼らへの敬意を最大限に示すのであれば、本来選択されるべきは、最も勝利確率の高い陣容を整え、その中心として彼らを先発に据え、強敵を打ち破ることであろう。
勝利こそが最高の餞別である。
「最後だから出場機会を与える」
「最後だから思い出を作る」
そうした発想は人情としては理解できる。しかしプロフェッショナルスポーツの文脈においては、感傷に流された妥協と映る危険性を孕んでいる。競技の本質は勝負であり、勝負を上回る美談は本来存在しない。
さらに看過できないのは、この種の判断がチーム文化に与える影響である。出場機会の少なかった選手を起用すること自体は何ら問題ではない。問題は、その理由である。
もしその起用が純粋な実力評価の結果であれば健全だ。しかし、そこに「最後だから」「功労者だから」「記念だから」という要素が混入するならば話は変わる。
組織を強くするのは競争である。
競争を成立させるのは実力主義である。
その原則が曖昧になった瞬間、組織の緊張感は失われる。
選手たちは無意識のうちに学習する。
実力だけが評価基準ではない、と。
その積み重ねは、やがて競争の質を低下させる。そして競争の質の低下は、必ずチーム力の低下として表面化する。温情は一時的な満足を生むかもしれない。しかし、それが常態化した組織に未来はない。
そして、このメンバー表が突きつけている最も残酷な現実は、パナソニックとの思想的な差異である。パナソニックが常に正しく、サントリーが誤っていると言うつもりもない。しかし、少なくとも今回の選考から受ける印象は明白だ。
パナソニックから感じられるのは、
「最後の一戦まで勝利を追い続ける意志」
であり、サントリーから感じられるのは、
「シーズンをどう締めくくるかという意識」
である。
勝利を最優先事項とする集団と、物語性や情緒を重視する集団。その差は小さくない。近年、サントリーが黄金期を再現できず、パナソニックとの差を埋め切れない理由を一つ挙げるとすれば、その一端がこのメンバー表の中に凝縮されているのかもしれない。
冷徹な勝利至上主義か。
情緒を重んじる人間主義か。
評価は分かれる。
しかし、あえて極論を述べるならば、このメンバー表は勝利への宣戦布告ではなく、シーズン終了を告げる閉会宣言に見える。
そして、その事実こそが、私に失望を抱かせている最大の理由だ。
